家庭の医学

小説家 小川洋子さんの幼い頃の愛読書は ”家庭の医学”だったそうだ。

9cmくらいの赤い太い本で、あらゆる病気のことがかかれてある。

我が家の本棚にあった。

昭和のずっとはじめの創刊で5000円と値段が書いてあったと思う。

あまりにも太くてよく見る頁は ぱっかりとのりが取れてしまったり。

背表紙の網網の糸が見えていたり。

いやぁ あれは私が面白がって遊んでいたからああなってしまったのかなと思ったり。なんせ、ボロボロでした。

胃の調子が悪い父はその本に赤い線をひっぱったり、何か文字を書き込んでいたりした。なぜか見ても分からないのに見てはいけはいような感じがして、その頁はさささと飛ばして見なかった。

最初のカラーの頁には ガイコツや赤い血管と青い血管でしか表現されていない人間や筋肉だけの人間がこれでもか、ってあってちょっと怖かった。どうしてモデルはいつも男なんだろうと思ったりもした。

普通の頁は 白黒印刷だけど人工呼吸の仕方とか水虫の写真や手術によって取り出された何か、えらく骨が曲がった指、ガタガタの歯、赤ちゃんの異常な便、両方の乳首がそっぽ向いた写真。(←これは今でもなぜか鮮明)それらは怖いけど小さい私を釘付けにした。

愛読書とは言わないが ぱらぱらめくって暇つぶしに見ていた。

夏休みは特に見ていたように思う。

これらの写真はもちろん夜に見るのは怖かった。

漢字が読めるようになってからは、中耳炎に罹ったら

索引の”ち”のところから”中耳炎”をさがしてその頁をめくる。

字引(昔は国語辞典とかをこう読んだ)の感覚で。

”おなかが痛い””胸が痛い”とかそういうかんじで引くことも。

だから私は何か体に異変があった時、必ず今でも”家庭の医学”をめくる。

インターネットでも今の時代は情報は豊富だし便利かもしれないが、

なぜかそっちで調べても、家庭の医学でも調べないと気がすまない。

索引から385頁を探すあのドキドキするところ。

もしかして”死に至る”という言葉があったらどうしようとか。

早く病院に行って下さい。とあれば、”はい、そうします。”と素直に思える何かがある。大丈夫とあれば安心する。納得する。あの客観的なところ、無機質な活字がいいと思う。

あぁ長くなったけど友達が腹膜炎というので昨夜調べたのだ。

(彼女は入院している。大丈夫???)

いつも1つだけじゃ物足りず、あぁあれも、これもと調べてみる。

昨夜のついでは オットの頻尿について。

私の知識も増える。

こうやって培った(?)おかげで 私は病気にかなり詳しい。

何でも聞いてくれ。

結婚してからあるうちの”家庭の医学”はオットの健康保険組合からもらったと思われるもので4センチぐらいしかなく奇妙な写真がほとんどのっていない。実に物足りない。いつか10センチ(あれから30年近く経っているので病気も多くなって1cmぐらい増えている)の赤い家庭の医学を買いたいと思っている。