カレーライス

・・・僕はどうしてカレーを作らなくなったんだい?と聞いてみた。

小石を蹴る真似をして彼女はこう言ったんだ。

「カレーを作った日は嬉しくってメールするの”今日はカレーです”ってね。」

と少し微笑み、

「でもその日は、冷蔵庫にあった野菜ジュースを珍しく入れてみたの」

なぜ?と聞くと

「ずっと、そこにあったから。」と彼女はきらきらした目を僕に向けた。

確かにカレーは出来たんだ。

彼女も美味しくないと思ったんだ。

そして彼はこう言ったんだ。

「君が”カレーです”とメールしてくる日は帰ってくるのが怖いと。」

やれやれだ。

彼には美味しくできたカレーと美味しくできなかったカレーを食べる確率は、世界には男と女しかいない確率と同じだってことが分からないんだね。

ナカタさんは、ちょっと困った顔をして石をみている。

脳みそをちゅうちゅう吸われちゃうんだ。

今日僕は100%の女の子に会ったんだ。

ほんと、カンガルー日和だね。

そうなのか。

そうなんだ。

だから君は カレーを一生作らないんだね。

彼女は ゆっくりとうなずいた。

そして鼻のあたまに汗をかいていた。カレーを食べたときのように。

     村上冬樹風 『カレーライス』

     上記物語は ノンフィクションです。