ばばあ

私が入社したとき

神戸の営業所は同じフロアにあったけど中で完全な仕切りがあり第一第二と別れていた。

私は第一営業所の内勤者で扉を開けると私がニヤリと微笑み扉に一番近い場所で

受付みたいな役も兼ねていた。(と言っても来るのは運送屋さんだけだけど)

その奥に第二営業所があって出入口はひとつなので所員は私の前や横を通らないといけない。

第二営業所は ばばあと言われる女性だった。私がハタチで彼女は41ぐらいだったか。

支店内は大阪に2人金沢に1人京都に1人みな40以上で独身。

これは全国的なことで結構普通に独身で定年を迎えるという こわい会社だった。

その中でもばばあは結婚しており入社したときは顔もかわいらしいと他と一線を引いていたらしい。

天地真理のような厚かましくも愛らしいそんな感じでキュートといえばキュート。

シャネルのNo5を愛用し(これがむちゃくちゃくさかった)冬には毛皮で登場した。

誰もいなくなってしまう営業所では 席が離れているといえどもばばあと2人きり。

みんなははじめ ばばあにいじめられていないかと電話で口々に心配してくれたが

私は辞めたいなどと言わなかったし(前任者は3年で辞めた)

私はそういう人間でないことが分かり ばばあと言い合いしたってほんとか?(してない)

みたいな全国的に強い女としてレッテルが貼られてしまったほどだ。

美波くんの仕事のしやすいようにと上司が ばばあを追い出すことになった。

新幹線通勤までさせて本社に通わすようにした。(会社ってすごい)

それは建前でみんな精神的に嗅覚的(シャネルがくさかった)にやられていたのは間違いなかった。

とにかく物事をはっきりと言い 威圧感を与え 気分がころころと変わる勝手な人だったからだ。

猫を6匹ぐらい飼っていて 猫を捨てた姑の掛け軸を仕返しに燃やし、

猫のために部屋を作り家を建てたほどで だんなさんより給料が高いのでだんなさんも頭が上がらない。

そしてなんといっても ヒステリーなのだ。

あの時 彼女の言動に こんな人が世の中にいるんだと思ったほどだったけど

もう彼女のことを思い出すことはほとんどなくて忘れてしまっている。

そんなかでも たまたま通りかかったときに聞いたローンを嘆く男性社員に向かって

『子供なんか作るから ローンや教育費がかかるんよ あほらしい』が強烈だった。あほらしい。と。

風のうわさで 3回ぐらい流産してもう子供は作らないと決めたらしい。ことを聞いた。

なんだか今でこそ 彼女と同じころの年齢になって分かるような気がする。 

あんなにつんけんしてた彼女のことが。

時折猫のような声で みなみさぁんあのねぇと言って来たことが。

いくら猫がいても いくら毛皮を着ても 満たされない彼女の何かを。

いつもイライラととげとげしく何も怖くないと とても大きなヨロイを着ていたことも。

キッチンキッチン(プレンティ)でマトリョーシカのキーホルダーを買った。

まつげがくりんとして 体もくりんとして 可愛い。

でも何かに似てると思ったら ばばあだった。

だから ばばあのことなんか思い出して書いてる。

このマトリョーシカには 罪はないけど。

ばばあの画像